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老師に余計なことを申さず

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2023.04.28

施術の間

心を癒やす古人的旧暦処世法

2023.4.27付
【滋賀県甲賀市の小波津式整体施術なら】
いしやま整体サロン連載ブログ第60回
『老師に余計なことを申さず』

 太陰暦だと閏月があるものの季節感がぴったりする。きょうは陰暦だと弥生三月八日である。つい五日前が桃花満開の桃源郷を彷彿とさせる桃の節句で雛祭りだった。太陽暦カレンダーをみると、新茶摘みが始まる夏も近づく陰暦元旦から八十八夜は五月二日であり、太陽暦だと八十八夜にあらずじっさいには元旦から百二十二夜となる。そういうややこしい季節感の調整が明治朝以降入るので困ったことではある。なかにはそのまま九月九日のように十五夜を中秋の名月とかいって、すすきと団子で月見をしたり、重陽の節句とかいって早咲き菊花の宴を催したりする。今年ならば10月23日が太陰暦すなわち旧暦の九月九日にあたる。菊花を愛で、虫の音を聴きつつ、秋冷気漂うなか煌々と冴えわたる明月を眺めようとして、暫し観月台にでも登るがいい。それが情緒豊かな日本的美学である。季節の情緒に浸るには江戸期までの人々の生活のほうが、この国の風土にかないずっと幸せだったろう。せめて心だけでも旧暦で過ごすとストレスが少なくなるだろう。

心のセルフケア山がある暮らし

 日本人を過剰な精神的ストレスから身を守らせるための最強のセルフケア防具として、古来からこの国の大自然は豊かな天然の美を与えてくれている。この豊穣な自然と四季の醸す情緒的な季節的感性が、天与の恵み贈り物として与えられている。現代社会とりわけ都市生活では、コンクリートビル・アスファルト道路等おしなべて直線的な人工美のなかで日常生活を送らざるを得ない。もちろん大都会であろうが一歩郊外へ出かければ、原生的な大自然はいくらでもある。かつて30年あまりサラリーマンとして、東京や大阪神戸ほか大都市での都会生活を送っていた。休日が待ち遠しくて、高尾山や箕面といった東海自然歩道の起点である東西明治の森や芦屋ロックガーデンほか六甲山系へ屡々足を運んでいた。大自然に包まれていると、こころが癒やされた。東京銀座や丸の内また大阪梅田や御堂筋界隈で生活していると、息が詰まったことを覚えている。生まれが山に囲まれて育った田舎者ゆえに、大自然の山々に包まれていると安心できた。高い山脈や丘が衝立になってくれていたのだ。大都市は隠れ家がなく妙に気恥ずかしかった。

プロフェッショナル整体家のプライド

 そのような田舎暮らしに戻ってから、早いものでもう20年が過ぎた。ぼくが住まいしている地域には、昔から鍼灸師として著名な老先生がおられる。台湾の高雄から終戦後に帰還された父親の代から、親子二代にわたり鍼灸院を開業されており、今年でもう80年になる。幼年期の微かな記憶のなかでも、母がぼくの夜泣き疳の虫を抑えるためだったようだが、頭蓋へ「もんもん」と呼ばれていた鍼治療を受けに、父老先生の処へ連れて行ってくれたことはじつに鮮やかに蘇ってくる。ふたりで初夏の田圃の中に集落が点在する田舎道を、とぼとぼその鍼灸院まで延々と歩いたのだ。ぼくが両肩同時の五十肩と右膝痛に襲われ、切羽つまって小波津式神経筋無痛療法による施術を受けるまでは、日本アルプスや尾瀬への登山による筋肉痛や膝痛治療のために、総合病院整形外科・鍼灸師・あんまマッサージ師・柔道整復師による治療を、これまでずっと受け続けてきていた。そのプロの治療家と呼ばれる方々は、当然ながら健康管理維持法について一家言をお持ちである。

爽やかな会話で人間関係を維持しよう

 先週の日曜日に、その鍼灸治療院二代目の老師は休日を返上して、自家所有地である田植え前の圃場水田の畦や土手の草刈りをしておられた。ぼくのほうは開業以来、年中無休完全予約制をとっており、その日はちょうど脳梗塞と脳出血により左半身完全麻痺になられた患者さんの訪問施術を終えてからの帰宅途次であった。道路沿いの水田で働く老師をマイカーを運転しながらお見かけしたのだ。小波津式整体施術を知らなかった3年前までは、趣味の登山やデスクワークでの肩凝り・腰痛・膝痛が頻繁に起こるつど、永年にわたりずっと老師の治療を受けていたので親しい。そこでマイカーを停めて土手で暫く歓談したのだが、老師に体調を伺うと「腰痛はさほど苦にならないものの、いまは膝が痛い」と仰る。腰痛治療では、総合病院整形外科医による執刀手術を受けておられる。「それで膝痛をどうされているのですか」「ぼくもプロだからね、セルフが難しい処は女房に頼んで鍼灸治療をやっているよ」とのことだった。それを聴くと鍼灸老師のプライドを傷つけられず、とてものことながら小波津式施術を勧められなかった。

 これまでの長い人生をかけて、職人技・名人技の領域にまで到達されている鍼灸治療の老師であるだけに、当然ながら強いプライドをお持ちである。それゆえに、鍼灸以外のいくら素晴らしい別種特定の施術であろうが、老師ご本人の口から施術依頼を嘆願されないかぎりは、この場は口を閉じて慎んでいるべきだと悟りすまし、もう余計なことは一切申さずにその場を失礼させて頂いた。人間はプライドを傷つけられると怒るのである。

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